Haruka Kanzaki “ON THE WAY BACK HOME”

2018年2月のDMOARTSの個展からの1年間と、イラストレーションを通して目指すものについて、神崎遥さんにじっくりお話を伺いました。

とても忙しい一年を過ごした

―まずは改めて、この1年間でどのような展示をしたか聞かせていただけますか?

  • 2018年はDMOARTSのほかに東京で2回、digmeout ART&DINERや福岡の蔦屋書店でも個展を開催しました。

    たくさん展覧会をしたのであまりに忙しくて、11つに向き合えないとしんどくなりました。時間をかけたいので、今のところはこれが今年唯一の個展になるかと思います。

―環境や制作の上での変化はありましたか?

  • 環境の面では、今年に入ってから忙しい職場に移ったので、どう効率よくイラストレーションの仕事をするかというのを考えるようになりました。選んで声をかけて頂いているので、責任がありますし、求められていることに応えたいと思っています。

    制作に関しては、たくさん描いたので絵は上手くなりました。お金をいただいて練習しているような感じです(笑)。

    あとは、自分が知らない方から知られている、ということが起こりだしました。直接、作品の好みを伺ったりする機会ができました。

  • ―環境や制作の上での変化はありましたか?

音楽を聴くと、風を感じる

―digmeoutのお仕事としても、須澤紀信さんの1stアルバム『半径50センチ』のジャケットイラストや、FM802のACCESSキャンペーンでは、aikoさんが作曲し、特別ユニットRadio Darlingsの歌う『メロンソーダ』のキャンペーンイラストなどをご依頼しました。振り返ってみていかがですか?

  • 音楽を聞いていると、車や自転車で移動していることを想像します。実家にいたときに車で迎えに来てもらったり、出かけるときに音楽を聴いていたからでしょうか。

    音楽に合わせたイラストを描くということで、乗り物に乗って移動するときに感じる風みたいなもの、そういう空気を描きたいと思いました。

     

    須澤さんのアルバム曲は高校時代の話が背景にあるようで、自分の学生時代の記憶を遡りました。白いカーテンが揺れる窓から校庭を見下ろすと野球部が練習している、みたいな。

    須澤さんの歌声はまさに、音楽を聴きながら自転車で通学して、風に当たっている・・・という雰囲気を感じたので、ある程度共通言語的なものを持てていたようで、自分としても自由にできました。

     

    ACCESSキャンペーンは大きな仕事で、スケジュールもタイトだったのでかなり緊張しました。イラストレーターとして自分のスタイルを保ちながらリクエストにも応える、というのは難しいことだと実感しました。

    でもキャンペーンを知ったaikoファンの友達から反応がありましたね。

  • ―digmeoutのお仕事としても、須澤紀信さんの1stアルバム『半径50センチ』のジャケットイラストや、FM802のACCESSキャンペーンでは、aikoさんが作曲し、特別ユニットRadio Darlingsの歌う『メロンソーダ』のキャンペーンイラストなどをご依頼しました。振り返ってみていかがですか?

個展では、自分の望むように全体の雰囲気をつくる

―今回の展示「ON THE WAY BACK HOME」について教えてください。テーマはどこから来たのでしょうか?

  • 仕事が立て込んでいた時の休日、朝起きて、本当に陽気のいい日で、しばらく出かけていないし、いま時間があったら絶対に電車に飛び乗って海に行ってるな、行きたいなぁと思ったことが元になっています。

    どこかに行くというと、ヤシが生えた海岸線を車で走っている、というイメージが何となく浮かぶんです。その際に個展の話をいただいて、その想像自体をテーマにしてしまおう、と思いました。

    色々行きたいところがあっても行けないので、見てみたいものだったり行ってみたい場所だったりを描いています。

  • ―今回の展示「ON THE WAY BACK HOME」について教えてください。テーマはどこから来たのでしょうか?

―お客さんにはどういったところを見てもらいたいですか?

  • 書き込みがすごいイラストではないので、全体の雰囲気を見てほしいです。

    お仕事として描くイラストは11枚独立していますが、個展では自分の望むように全体の雰囲気を作れるので、普段あまりできないことを自由にやりたいと思います。

―作品づくりでこだわっていることは何でしょうか。

  • 和紙にインクを滲ませて描いていることが特徴なので、そのタッチに描く対象が映えるかどうかは意識しています。私のイラストのスタイルは、柄のないガラスのコップといったシンプルすぎるモチーフには向いていない気がしています。

    描きやすさも大事ですが、人が好きだと感じるんじゃないだろうか、心を動かせるんじゃないかな、というものも選んでいます。モチーフは今まで撮りためた写真やたまたま見つけたもの、探したものなど、様々です。

  • ―作品づくりでこだわっていることは何でしょうか。

受け手が作品から得た感情が、すべてだと思う

―神崎さんが作品を通じて表現したいのはどんなことでしょう?

  • 私が考えていることはあまり人に知られたくないんです。

    絵や小説、映画などの作品は、受け手が得た感想がすべてだと思います。でも、作者の成育歴や近影などの情報が、作品と別の印象を与えてしまうことがあると思います。

    例えば、歴史上の人物やアーティストでも、他人が評価したことと、自分が発信することとは、意味や内容が本質的に違うと思っています。

    私は作品には興味はありますが、必ずしも作者に興味があるわけではないです。もしその人が自分自身に言及したいのであれば作品としてエッセイを書くだろうし。

    同じ理由で、私自身は、作品それ自体から感じ取ってもらうことだけにとどめて、作品ひとつひとつについてはあまり自分の考えは出さないでおきたいと思っています。

  • ―神崎さんが作品を通じて表現したいのはどんなことでしょう?

―これからイラストを描いていく上での目標などあれば、教えてください。

  • 私の絵がすごく好きだと思ってくださる方、そしてもちろん買ってくれる方が増えることが一つのゴールです。それからアートディレクターの方に、私の絵がビジネスとして使えそうだな、と思っていただけたら嬉しいです。

    それは打算というよりも、作品を見ていいと思っていただいて、それが重なって行くということだと思うので。

将来的には、デザインのディレクションもして行きたい

―これからやってみたいことはありますか。

  • 本の挿絵やファッション雑貨、建物の壁画など、物質的にそこに留まるものに携われるチャンスがあればと思っています。

    それから絵の支持体でもある和紙の研究とか、税金の勉強など、やりたいことがたくさんあります。

―神崎さんはイラストだけをやって行きたいわけではないですよね。長期的にやりたいことについて聞かせて下さい。

  • イラストは特技を生かしてお金をいただこう、というところからスタートしています。なのでたくさんの方に気に入っていただいて、依頼をいただいて・・という目的は変わらずにあります。

    飽き性なので、グラフィックデザインの仕事も同時にやって行きたいと思っています。特技を活かしてお金を稼ぐという点には変わりはありませんが、ロゴデザインやサインを作ったりするのもとても楽しくて好きなので、いずれは個人でもデザインの仕事を受けていきたいです。

―神崎さんにとってのグラフィックデザインって、どういったものなのでしょうか。

  • 自分で好きなように個性を出せるイラストに比べて、より「仕事」という感じがします。

    使っている道具や素材は結局みんな同じですし、最優先なのは伝える内容であって、作った人間を意識させることは本質じゃないと思っています。だけどその中で名前が売れる方がいるのはどういうことなんだろうって考えています。その中で頭角を出せる何かを探しながら、なんでもできる人になるのが理想です。

Director’s Eye

  • 昨年の個展「BEER,BEER,BEER!」では、世界各国のビール瓶などを描いた神崎遥。好評につき、今年も個展を開催してもらいます。

    この1年間、神崎さんとはクライアント案件などでもご一緒していますが、彼女が描く絵の魅力を再確認しています。軽やかに線を描き、繊細なインクのにじみと大胆な構図。シンプルであり、インテリアなどにもしっくりくる味わい深い作品です。この機会にぜひお越しいただき、お好みの作品を選んでみてはいかがでしょうか。

     

    digmeout / DMOARTS ディレクター

     

    高橋 亮

ARTIST PROFILE

  • 神崎遥 / Haruka Kanzaki
  • 神崎遥 / Haruka Kanzaki

    2017年 桑沢デザイン研究所卒業
    グラフィックデザイナー / イラストレーター
    会社員として勤める傍らフリーランスとして活動中。
    https://digmeout.net/artists/haruka-kanzaki/

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