-
世界の美術館や絵画を紹介するテレビ番組が好きだったし、小学校の美術室にあったゴッホやルノアールの絵を眺めて「油絵っていいなぁ」と思いました。中学校の授業で初めて油絵の具を手にして以来、ほぼずっとですね。高校でも美術コースで美大に向けて準備していました。でも、本格的に油絵の具の使い方も含めて取り組んだのは精華大学で洋画を勉強してからです。
--小学校から油絵に開眼とは早熟ですね、周りはテレビアニメだったのでは?
-
それも好きでしたよ(笑)でも、子供ながらに絵に感動しましたね。当時祖父がよくテレビを見ていて番組と番組の間に5分くらいの「世界の美術館探訪」みたいなのがあり、ジョン・エヴァレット・ミレーの「オフィーリア」の制作は実はお風呂場に人を浮かせて描いたというエピソードなど面白いなと思いました。
--どんな絵から描き始めましたか?
-
中学の時に初めて油絵でルノアールの模写をしたんです。正確に描くためには筆跡や色の選び方を自分で再現している感覚になり、時代も国も違うのにまるでその人が隣にいるような気がして楽しかったです。
--中比良さんの油絵は新しい感覚がありますね。
-
周りと比較して自分のは本来の油絵とは少し違うことで学生時代に表現方法を悩んだ時期がありました。一時期、イラストレーターに憧れてポスターカラーで描いたのですが、やはりちょっと違うなと。油絵らしくないかもしれないけれど、自分なりの表現で良いと思い、こっちに戻ってきました。
--影響を受けたアーティストや画家を教えてください。
-
子供の頃に有名どころの印象派の画家を知りましたが、日本画も好きで福田平八郎、東山魁夷、浮世絵や昔からの伝統的な文様などからも影響を受けていますね。
--中比良さんはこれまでに一つのテーマで何枚もの作品を描いていらっしゃいます。これについて教えてください。
-
1枚の絵だけでテーマを表現するのは難しいので何枚か絵が来ます。ミュージシャンが一つのテーマで10数曲をアルバムに収めますよね。あれに近いですね。全体の空間や世界観が表現できます。
--テーマはどうやって決めるのでしょうか?
-
小さなノートを持ち歩きネタ帳のようにアイディアや、写真を撮りためています。それが何年後かに自分にフィードバックしてくるという感じですね。自然に思いついたものを持っておいて、それが何年後かに形になり、それを結び付けて作品にしています。
振り返ればテーマを塊で観ることができるので、その色合いや質感から当時の自分を思い出したりもします。
--制作の手順を教えてください。
-
アイディアの段階や資料を集めることから始めますね。その後にキャンバスの下地作りをします。油絵の具はすぐに乾かないため、複数の絵を並行して描きます。
--テーマは違っても共通点は「景色」ですね
-
自分がどういうものを見たら救われるか、落ち着くか、という視点があります。私はどちらかと言うと視野が狭くなりがちで、息苦しくなることがあるからか、遠景・近景に関わらず「景色」に憧れます。景色を描くことは、その時々の自分にとっても救いかもしれません。描きながら景色と自分の距離感はその時々によって変わります。観ている方にとっては、ご自身が見てきた情景と結び付けてもらえたらと思います。同じものを観ていてもそれぞれ違うように映るというか、そういう作品にしたいなと思います。
--今回の個展『Far Away』は 望遠鏡から覗く世界。このシリーズを描いたことを少し教えてください。
-
今、自分が描きたい風景画です。去年の冬くらいに、そのことを考えながら、今の自分が惹かれるものを思い浮かべたら、子供の頃に家にあった山水画のつい立や望遠鏡から見た景色、スノードームの中にある小さな景色でした。丸いキャンバスの中に風景画を描くことで中心線がより奥に行くので、遠い景色が作れると思いました。また表現としては、今回は心象風景や日本画の好きなところを思い浮かべながら描きました。
--今回の個展でどんなところを見てもらいたい、感じてもらいたいですか?
-
自分自身がその風景を今観ているような、1対1で向き合ってみてもらえたらなと思います。今回は30点を予定していて、ほとんどが描き下ろし。このシリーズは初個展です。これまで私は大きな作品が多かったのですが、「覗いている」感じで小さめの作品を意識しました。
--作家としてどのような気持ちを維持していらっしゃいますか?
-
大きい目標を立てるよりも日々の積み重ねを大事にしています。絵をずっと好きで描き続けていくというのは実は難しいことで、発表する機会はあったとしても自分がそれを楽しめなくなったら終わりです。絵を続けるにはどうしたらよいのかを食事や睡眠と同じで毎日の基本的なこととして絵も続けて行ければと思います。あと、できるだけ黒子でありたいですね。絵だけで成立してくれると嬉しいです。
--これからやってみたいことは?
-
ホワイトキューブ以外で展示をしたことが無いので、違う場所、町屋や工場など、作品シリーズによって合うところでやってみるのも楽しいかなぁと思いますね。
ARTIST PROFILE
-
中比良真子 / Masako Nakahira
【略歴】
1979年 滋賀県生まれ
2004年 京都精華大学大学院芸術研究科造形専攻修了
【個展】
2003年 Nomart Projects #2 中比良真子展 WATERING(ノマルエディション/プロジェクトスペース/大阪)
2004年 blooming(neutron kyoto /京都)
2006年 Kyoto Art Map 2006参加企画 bird eyes(neutron kyoto /京都)
2008年 The world turns over(neutron kyoto/京都)
2009年 here,there(neutron tokyo/東京)
2010年 Stars on the ground(neutron kyoto/京都)
2011年 Stars on the ground(neutron tokyo/東京)
Sunny Water(deem FIVE MANSION GALLERY/神戸)
2012年 The world turns over(gallery near/京都)
The world turns over(neutron tokyo/東京)
Returns of The world turns over(くちばしニュートロン/京都)
2013年 Transparent room(gallery near/京都)
Point(京都精華大学/京都)
2014年 border(DMOARTS/大阪)
2016年 Piece of Presence(DMOARTS/大阪)
2017年 The world turns over(space eauuu/兵庫)
協力
ARCHIVES
-
中比良真子 / Masako Nakahira
【略歴】
1979年 滋賀県生まれ
2004年 京都精華大学大学院芸術研究科造形専攻修了
【個展】
2003年 Nomart Projects #2 中比良真子展 WATERING(ノマルエディション/プロジェクトスペース/大阪)
2004年 blooming(neutron kyoto /京都)
2006年 Kyoto Art Map 2006参加企画 bird eyes(neutron kyoto /京都)
2008年 The world turns over(neutron kyoto/京都)
2009年 here,there(neutron tokyo/東京)
2010年 Stars on the ground(neutron kyoto/京都)
2011年 Stars on the ground(neutron tokyo/東京)
Sunny Water(deem FIVE MANSION GALLERY/神戸)
2012年 The world turns over(gallery near/京都)
The world turns over(neutron tokyo/東京)
Returns of The world turns over(くちばしニュートロン/京都)
2013年 Transparent room(gallery near/京都)
Point(京都精華大学/京都)
2014年 border(DMOARTS/大阪)
2016年 Piece of Presence(DMOARTS/大阪)
2017年 The world turns over(space eauuu/兵庫)
--中比良さんと油絵の出会いを教えてください。