--YUGO.には音楽とファッションは切り離せない印象があります。最近注目しているバンドはありますか?
-
Superorganismかな。実は彼らが今回のMassive Internetのアイディアの元だったりする。メンバーは多国籍。演奏スタイルや映像を見ても新しい価値観のバンドだと思う。YOUTUBEが一番の発信源というのを意識した映像で1年足らずでフジロックにも出てきた。スピードとYOUTUBE、これは今の時代の特徴ですね。短期間で自分の作品が大御所の目に留まってどんどん出世していく映像作家も僕の周りには居ます。それだけ消費されやすく、クリエイティブの劣化のスピードも速くなるという面もあるけれど、世の中に出ていくスピードがとにかく速いです。かつては売上で評価されていたことが、今はフォロワー数とかダウンロード数などデジタル上での数字が判断基準になるし、ある意味だれもが表現できる時代だと思う。
--そういうのも感じているから個展タイトルにMassiveという言葉を選んだのですか?
-
Massiveには「圧倒的な」「ずっしり」という意味もあるから「情報摂取しすぎて脳はとても重くなっている」という意味も込めつつも、言葉の響きやニュアンスで選ぶことが多い。特に僕は音楽が好きだからInternetやComputerというワードでも単に言葉というより、例えはレディオヘッドのOK Computerを思ったりするわけです。
--なるほど。個展について教えてください。
-
すべて描き下ろしで20点ほど予定しています。ネット社会をテーマにしているので問題提起というよりも、LINEやSNSでのコミュニケーションで起きる喜怒哀楽の感情など、何をするにもインターネットがある日常を絵で表現しています。例えばこの絵は、ネットのこちら側と向こう側のどちらの目線で物事を見ているかという事を描いた。現実の世界に出られなくて、パソコンの中で戸惑っている。これは自撮りなのか、あるいは画面に映っている写真を見せつけているのか、その判断は見ている人に委ねたい。これは女性から男性に気持ちが届くまでをGoogle Mapで線にしています。
翻弄された感覚をそのまま描きたい
--絵を描きだしたきっかけや、その後の転機など教えてください。
-
digmeoutに入った2005年が全ての始まりです。その頃の僕はパソコンを使えずに鉛筆だけで描いていたのが恥ずかしかった。デジタルが使えないと仕事がしにくい引け目もあった。作風は変化してきたけれど好きな軸はあまり変わらないと思う。4年ほど前にDMOARTSで15枚の描き下ろしを展示する機会があり、今から思えばそれが転機でした。数日間で一気に15枚描いている時に、初めて楽しさを感じた。それまでは売れることやウケることを考えていたけれど、根を詰めながらも描くのが本当に楽しくて、単純に自分が表現したいことを描こうと思った。「あ、この感じで描いていきたいな」と、それまでは無かった感覚を覚えました。僕の絵をずっと見ていてくれていたイラストレーターのさくらいはじめさんから「あの展示からYUGO.の絵は変わったね」と言われたことがあるのですが、自分でもそう思います。
--どう変わったと思いますか?
-
それまでは絵に現代的な要素を入れるのを避けていた。時が経つと古く感じるので、どの時代か限定できないことを敢えて意識していました。人物も男はタキシードで女性は全裸というような。でもそれ自体が面白くないと感じたことが変化です。描いたものが明日には古くなっても良い。それよりも、その時々で自分が描きたいものや、翻弄された感覚をそのまま出したい。時代に寄せて表現していかないと、その時代に生きている意味が無い。いつの時代に観てもカッコいいというよりも「この時代にこの人は生きていたんだな」と思ってもらえるほうが良いと考えるようになりました。
--YUGO.が影響を受けた人やアーティストやクリエイティブなことを教えてください。
-
割と読書や人の意見に耳を傾けるのが好き。特に音楽関係の人とはリスペクトし合い、影響を受け合っている。アーティストだとリキテンシュタインとダニエル・クローズ。とりわけ、アメリカ人漫画家のダニエル・クローズからは相当影響を受けています。高校生の時に彼の映画「ゴーストワールド」を初めて見たときに、「カッコいいなー」と思った。それまでアメコミと言えばヒーローものや劇画的なものが主流だったけれど、彼の作品は超普通な設定です。線はラフに描いていても物語の中の軸になっているものを1色使い振り分けで計算しているのが面白いのです。あと、注目しているのがGUCCIのショートフィルム。これもYOUTUBEにあります。ここ数年僕の原点でもある「面白いことをやる」をとても感じるし、テーマに対するアプローチや色などはこうしたファッション媒体からもとても影響を受けます。
セオリーよりも表現について向き合う
--YUGO.の絵の吹き出しは英語の歌詞が元ですか?
-
ほとんどがそうですね。混ぜて好きな言葉や意味を調べて文法がおかしくないかを調べて繋ぎ合わせる。結構手が込んでいます(笑)。でも最近は文法の正しさより、カッコいいなーと思える字面を意識しています。表現は自由と言いながらも意外と真面目に何かに従ったりする。絵でも音楽でも、リズムがずれていても表現としてカッコいいと感じたらそれでいい。守るからこそ良い部分もあるけれど、それとは関係なく表現出来たらもっと楽しいだろうなと思います。
--絵を描くときに大切にしていることや自分なりのやり方というのを教えてください。
-
僕は絵を描く前に、アイディアを考えている時間がものすごく長いです。おそらく実際に描いている時間よりも長い。ペンも何も持たずにひたすら座って考えています。何も出てこないときはデジタルの重なっている音を聞きながら解体して音の構成を頭の中で絵に変換させることもあります。僕は元になっている線画はすべて手描きなので、構図が出て来たらまずはペンで描きます。
心のどこか琴線に触れられたら、という想い
--自分の絵はどういう存在でありたい、また、何のために描きたいと思いますか?
-
僕は幸せそうな人物は描かないし、仕事でもそういう依頼はできるだけお断りするようにしています。学生時代、見た目はごく普通だったけれど内面は闇のようなものを抱えて尖っていました。そういう想いを抱えた人に僕の絵が刺さると良いな。あと、以前の個展で、一人で来る小学生がいました。自分が小学生の時に何かで情報を得て絵を観に行くことは得なかったから驚いたのだけど、その子を見たときに良い意味で、学校で浮いているだろうなと思った。「この前の日曜日にイラストレーターの個展観に行った」なんて、そんな小学生がいたら凄いじゃないですか。買ってくれたグッズを身に着けて学校に行き、それを見た別の子がいい意味で「何これ?」って興味や、「カッコいい」って思ってくれたら良いじゃないですか。自分の絵を知っていることでその子の価値が上がるというのではないけど、「あの子は他の子たちとはちょっと違う」―そんな風なら嬉しいです。
--近い将来など今後について何か抱負などあれば教えてください。
-
今でもグッズのデザインやコラージュなどイラストを飛び越えてYUGO.の感覚だから、、というので依頼があるのが有難いです。「気づいたら絵とは全然違う表現方法をしていた」というのも良いという気持ちはあります。もっと素直に正直に。変化をしてもしなくても良い。そういう気持ちですね。
ARTIST PROFILE
-
YUGO.
イラストレーター、digmeoutアーティスト。
ロックバンド/ミュージシャンへのデザイン提供、アパレルブランドや音楽イベントのアートプロデュース、ファッション誌のイラスト等、音楽やファッションを中心とした様々なアートワークで活動を展開中。
協力
ARCHIVES
-
YUGO.
イラストレーター、digmeoutアーティスト。 ロックバンド/ミュージシャンへのデザイン提供、アパレルブランドや音楽イベントのアートプロデュース、ファッション誌のイラスト等、音楽やファッションを中心とした様々なアートワークで活動を展開中。
スピードとデジタルが今の価値観