西野彩花 個展「Stance」

町の片隅にある古びた工場。無造作に物が積み上げられた民家。日常の何気ない風景。作家・西野彩花が描く町を一緒に歩きながら、個展の作品や彼女の「視点」について話しを聞いてみた。 そこから見えてくる西野彩花の世界は、あなたにどう映るでしょうか。

 

一途に油絵ラブ

--油絵をはじめたきっかけをおしえてください。

  • きっかけは美術高校です。学校で、生まれて初めて油絵の具を使った時の感覚が今も忘れられません。とても描きやすいなーと惹かれまして、、、。子供の頃から絵を描くのは好きだったけれど習ったことは無いから、高校で一から勉強しましたね。でも、デッサンから美術史まで美術全般だから、油絵だけの授業は数回だけ。私は油絵だけしていたかったから、授業はそっちのけで、部活で油絵に没頭しました。「卒展は油絵」と決めていたし、大学でも油絵を専攻したので、ずっと一途に油絵。

  • --油絵をはじめたきっかけをおしえてください。

--絵を描くときの手法は?

  • 描くものを撮影してタブレットに移し、画像を見ながら下書き無しの「ぶっつけ本番」。キャンバスでもパネルでも同じです。風景全体を描かずに、構図を決めてバランスを考えます。キャンバスはトリミングをして、絵とキャンバスの余白を作ります。パネルの場合は真逆で、トリミングも余白も作らず全体を絵で覆いつくします。あと、パネルはかなり厚塗りしますね。つるんとツヤ感があってキャンバスとはまた違う印象になるのが面白いです。

--ひとつの作品はどのくらいで仕上げますか?

  • 早かったら3日、長かったら1か月くらいかな。

そこだけは変わらない風景

--今回の個展 Stance(スタンス)について、聞かせてください。展示作品は?

  • キャンバスに描いたものと、パネルのものと両方ありますが、すべて風景画です。

--その風景画が興味深いですね。きょうは弁天町で、西野さんが描いた実際の場所を一緒に歩きました。町工場の入り口や、道具がガサっと置いてある場所でした。なぜにこうした風景を?

  • 弁天町は小学生から高校卒業まで10年くらい住んでいたので、馴染みのある風景というか、原体験っていうのかな、そういうものがあります。町工場みたいなものは、生活感を感じなくて惹かれます。町工場や軒先に放置された道具って、生活の痕跡を感じないんです。完全に朽ちてはいないけど、手入れもされていない。そこにあるのは、持ち主は関心が無いであろうという日常で、道行く人に意識されることもなく通り過ぎられていく風景みたいな。周りは変わっていても、そこは変わらない。そういう風景に惹かれますね、弁天町に限らず。

  • --その風景画が興味深いですね。きょうは弁天町で、西野さんが描いた実際の場所を一緒に歩きました。町工場の入り口や、道具がガサっと置いてある場所でした。なぜにこうした風景を?

--この個展のフライヤーの絵も弁天町ですか?

  • これは、琵琶湖に浮かぶ島で「沖島」というところです。ネットで見つけて、もう行くしかない!(笑) 漁師の島で、もう時が止まったような。漁具がこう乱雑にある姿が良いなあと。ちなみにこれはパネルに描いています。

--風景を選ぶ基準はなんでしょうか?

  • 絵にした時の構図のおさまりが良いものかな。「絵にしたら、トリミングしたらこう?」とか想像しながら風景を選ぶ。全体ではなく「この部分だけ」を描きたくて写真をとることもあるし、ほとんど写真の段階ですでに頭の中で構図が出来ています。

リアリティを追求すると目的が変わる

--個展タイトル「Stance(スタンス)」と名付けた意図や意味、想いを聞かせてください。

  • 展示作品に共通なことをタイトルにしようと思って「スタンス」という言葉を選びました。スタンスは、「観点」とか「立場」という意味ですよね。それを、2つ捉えられるようにと思いました。ひとつは「視点」。作品そのものが私の「観点、視点」から描かれたもの。例えば、今日一緒に見た弁天町でこの町工場の実際の景色と、それを描いたこの絵は同じに見えるようで違いますよね。あくまで作品は私の視点から見た風景であるということ。もうひとつは、「立場」という解釈を少し広げて、私の「主義」です。見る視点と、作家としての主義主張みたいな意味をタイトルに込めました。

--西野さんの風景画は、全体パキっとポイントが合っていると思いきや、1か所だけピンボケのような個所があります。これは?

  • タブレットで写真を見ながら描くので、自分の「視点」ですごく好きな箇所は画面を拡大して細かく描いたり、拡大と縮小を繰り返すうちに風景の前後関係がバラバラになるんです。きっと好きなところに集中するがあまり、そうでないところはピンボケになっているんだと思います。これも私の「スタンス」ですね。(笑)

     

--細かな陰影にも富んだ西野さんの風景画。 描くときは写真に忠実ですか?

  • 忠実では無く自分の視点での編集が入ります。大きく逸脱はしないけど、自分の「スタンス」視点と主義で描きますね。一番の狙いは、見る人が「写真見て描いたな」とすぐ分かること。忠実にリアリティを追求すると目的が変わってしまう、この絵はあくまで私の視点・主義で描いたものですから。そう、「スタンス」。個展のタイトルに還りますけどね。

  • --細かな陰影にも富んだ西野さんの風景画。 描くときは写真に忠実ですか?

西野彩花を紐解く

--少し絵からずれますが、好きな音楽や映画、小説をおしえてください。

  • レディオヘッドが好き!「OKコンピューター」、ベタすぎますけどね、一番好きなアルバムです。あと、クイーンのボヘミアンラプソディが好き。割とイギリス系かなぁ。映画はね、、、Uボート(1981年)って知ってます?第二次大戦時を描いたドイツの映画です。私、潜水艦好きで辿り着きました(笑)ゴッドファーザーも大好きだけどPart3は記憶から消したいほど嫌い(笑)小説は三島由紀夫。ちょっとやばいですかね?(笑)

--ずばりお尋ねします。絵を描き続けようと思ったきっかけをおしえてください。

  • うむ、、、あまり話したことないのですけど(と前置きをして)、、、高校の時に、「自分の人生ってなにもないな」って思って。毎日空しくて、何の楽しみもなく淡々と生きて学校だけ皆勤賞で。ひとつ「持ってる」ものが欲しいなって高校の時に思ったんです。それが絵を描き続けようと思ったきっかけです。大げさかもしれないけれど、生きる目標を見つけたかったんだと思います。描き続けるモチベーションを維持するのは大変ですよ、しんどい。でも、私は絵を描くことが自分の存在だから描き続けます。絵を描かない人生のほうが楽かも(笑)でも私はどこかで空しくなりそうなので、絵を描き続けます。

--個展を通して伝えたいこと、こんな風に感じてもらえたらいいなということはありますか?

  • 物は見ようによったらいくらでも変わる、見る人の視点や主義によって違うということかな。人によって価値観、美意識ぜんぜん違いますよね。価値観や美意識は人それぞれですよ、と。

--さて西野さん、これから挑戦したいこと、やってみたいことは何でしょうか?

  • もっと人と関わらなきゃなって思います()それに尽きます(笑)もっと自分の絵のことをたくさん話す機会を増やしたいし、もっと人と関わっていきたい。心をそっちのほうに向けたいです。心境の変化でなくて自然の流れですね、変化を求めているのかな。絵に対する欲が出てきたのかな。

  • --さて西野さん、これから挑戦したいこと、やってみたいことは何でしょうか?

ARTIST PROFILE

  • 西野彩花 / Ayaka Nishino
  • 西野彩花 / Ayaka Nishino

    1992年 大阪生まれ。
    2015年 京都精華大学造形学科洋画コース卒業。 
    2016年 2月DMOARTSにて個展「一齣」開催 
    2016年 12月 あまらぶアートラボにてグループ展「日常の中のドラマ」など。

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