松村咲希 個展 SEEING THINGS

松村咲希さんは昨年、京都造形芸術大学芸術研究科修士課程芸術専攻ペインティング領域を修了したばかりの若手現代美術作家。その作品は、さまざまなマテリアルを駆使してレイヤーを重ねたもので、一見するとグラフィティからの影響を強く受けているような作風です。しかし彼女自身のバックグラウンドにはその要素はなく絵画制作の延長線上をたどって今の作風にたどり着いた、その辺りの遍歴やインスピレーションなどのお話しを伺いました。

中学時代が原点

--美術の世界に入ったきっかけを教えてください

  • 私はクラスメートに馴染めずお喋りが苦手でイラストばかり描いていました。絵なら自分を表現できたので、中学生の時に美術の先生に相談したら夏休みに私だけに石膏デッサンを教えてくれました。それが実に面白くて美大に行くと決めました。これがきっかけですね。大学の専攻は油絵。卒業後は、4年間の勉強では全く足らないので親に頼んで大学院へ進みました。

  • --美術の世界に入ったきっかけを教えてください

--大学院へ進むのは画家になるという一つの決意みたいなものでしたか?

  • そうですね。院ではペインティングという専攻名に変わり、何でも好きな素材を使って描いて良かった。遊ぶことを超えて楽しく、毎日学校に行き描きまくっていたし、卒業後は就職する選択肢は持たなかった。アルバイトで食いつないででも描こうと思い現在に至っています。描いているとき、完成した時、自分の絵が褒められたとき、、、描くことがそれまで内気だった私にとてつもなく大きな喜びをもたらした。最上のエクスタシーです。

絵画について掘り下げていくと見えてきたもの

--絵のスタイルについてはご自身の過去から現在の遍歴はどうでしょうか?

  • 大学の最初の頃、私はフランシス・ベーコンの表現主義に傾倒して、自分の内心を吐露するような激しいペインティングや怖いイメージの具象画を油絵の具モリモリで描いていましたが、やがてそれは精神的に辛くなってきて。大学で様々な美術の勉強をする中で、心痛めながら描いていた私に別の気づきをくれたのがピーター・ドイグの「カヌーと湖(Canoe  – Lake)」でした。彼の絵を見て面と面の絵であることに気づき、抽象画について勉強しました。ピカソやモンドリアンの多次元な時空軸や空間性にとても興味が湧き、徐々に今の絵のスタイルになってきたと思います。私にとって描くこととは時間軸と空間軸を組み合せていくこと。例えば今回のメインビジュアルに使われたこの作品もね、直線や曲線が交差し絡み合い何が奥で何が手前か分からなくなる錯覚を絵では作ることが出来ます。私たちが思う遠近とは全く矛盾したそれを絵の中に作るのが面白いです。

  • --絵のスタイルについてはご自身の過去から現在の遍歴はどうでしょうか?

--この絵のタイトルや、松村さんの制作手法について教えてください。

  • “Time and tide wait for no man”、「歳月人を待たず」です。おおまかな構図を決めた下図をパソコンで作り、支持体の制作に取り掛かる。白絵の具を何層も重ね塗りをして表面を滑らかに磨きます。ここまでで約2週間。制作は、面にマスキングテープで線を作りシルクスクリーンを施し、さらに絵の具を重ねて描くこと1週間。最後にマスキングテープを剥がすことで、この絵のような白い部分が生まれて立体的な空間となります。白は背景なのに目の錯覚で手前にあるように見えます。工程をあえて複雑にすることで自分を失敗に追い込む。失敗はコントロール不可の現象だし、別の言い方をすればその作品は完成しないけれど、失敗を後々に取り入れることもできます。

絵の中で調和するイリュージョン

--手法も素材も手が込んで様々な要素を取り入れているのですね!どのようなものからこうした作品に繋がるインスピレーションを得ますか?

  • 景色を「寄り」でフォーカスして見ます。過去の失敗や、製作途中で没になって丸めた紙屑や絵の具の汚れた痕跡もヒントになることがあります。あと、人間や生物はみんな見ている世界が違うというのも最近本を読んで気付きました。例えば、蝿は近くのモノしか見えないので、人間と同じものでもこのように歪んで見える。蜜蜂が見ているのは蜜を取るために開いた花だけが見える。これはユクスキュルというドイツ人動物学者が提唱した「環世界」という話しで、動物のモノの見方は人間からしたらイリュージョンだし逆もまた然り。遠近法も人間と動物では違うのも面白い。最近読み始めたので今後の絵に影響が出てくるかもですね。

  • --手法も素材も手が込んで様々な要素を取り入れているのですね!どのようなものからこうした作品に繋がるインスピレーションを得ますか?

--見え方の違いが空間軸や時間軸にも反映されてくるのですね。松村さんが影響を受けたアーティストに興味があります。

  • いわゆる作家でこの人!というのはいません。指導を受けた先生では東京・谷中のギャラリー SCAI THE BATHHOUSEに所属する大庭大介さんです。絵画の勉強は大庭さんから叩き込まれました。また、3月にDMOARTSで個展をした加藤穂月は大学の同級生で、彼女の絵画との向き合い方はとても感動します。私にとって尊敬できる良き友達でありライバルです。あと、ポール・オースターの小説は偶然性をテーマにしていて大好きです。

--松村さんは自分のスタイルをとても丁寧に追究されているように見受けられます。松村咲希と言えばこう、、みたいなポジショニングは今どう感じていますか?

  • いま自分のポジションがどうなのか正直分かりません。若手作家の悩みどころでもあります(笑)何か新しいことをしようとしているのかな、とも感じたりします。自分の中で言語化をしたり新しい作品を作っていかねばならないと思っています。その一つに、自分の制作や今後の活動のヒントにもなると思うので海外のアート事情の勉強も含めて台北のレジデンスに応募しています。

--さて、DMOARTSでは初個展ですね。意気込みを教えてください。

  • 若手ならではの悩みや迷いもあるので、個展では色々な意見をもらえると嬉しいですね。それが、私が個展で求めていることの一つです。自由に観ていただきたいし、感じてもらいたいです。それと、今回はDMOARTSに作品集を出版してもらうので楽しみにしていてください。    

  • --さて、DMOARTSでは初個展ですね。意気込みを教えてください。

ARTIST PROFILE

  • 松村咲希 / Saki Matsumura
  • 松村咲希 / Saki Matsumura

    1993年 長野県出身
    2017年 京都造形芸術大学芸術研究科修士課程芸術専攻ペインティング領域修了

    [主な展覧会]
    2015年
    混沌から躍り出る星たち2015(スパイラルガーデン・東京)
    Tourbillon XIII(Oギャラリーeyes・大阪)
    国立台北芸術大学×京都造形芸術大学交流展(国立台北芸術大学・台北)
    京都造形芸術大学大学院Pr.PROJECTS x 東京藝術大学大学院第一研究室交流展(東京藝術大学上野キャンパス・東京)

    2016年
    弘益大学70周年記念国際交流展(弘益美術館・ソウル)

    2017年
    ターナーアクリルガッシュビエンナーレ入選・受賞作品展(ターナーギャラリー・東京)
    ワンダーシード展(ワンダーサイト渋谷・東京)
    京都造形芸術大学卒業・修了展(京都造形芸術大学・京都)
    ART OSAKA 2017(ホテルグランヴィア大阪・大阪)
    Over and over again 個展(SUNDAYCAFE・東京)
    アートアワード東京丸の内(丸の内行幸地下ギャラリー・東京)
    DEP/ART kyoto 藤井大丸ショーウィンドウ(藤井大丸・京都)
    アートフェア札幌2017(クロスホテル札幌・北海道)

    2018年
    ARTISTS’ FAIR KYOTO(京都文化博物館 別館・京都)

    [受賞歴]
    2014年度京都造形芸術大学卒業・修了展 奨励賞
    ターナーアクリルガッシュビエンナーレ 入選
    ワンダーシード 入選

協力

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