鬼頭祈 個展「Bloom」

日本画の技法を生かし、小人や苺をモチーフにした現代的な絵画で人々を魅了し、画家として国内外の個展を中心に活動されている鬼頭祈さん。たおやかな時間が流れるアトリエにてお話しを伺いました。

--鬼頭さんは静岡生まれで大学は京都造形芸術大学ですね。いつ頃から美大を意識されましたか?

  • 小学生の作文で「将来は絵描きになりたい、なぜなら絵を描いてお金を貰えるからです。そのためには美大に行きます。」と書いていました。幼少期から絵描きになることを意識していたようです。

--絵を描く環境で育ったのでしょうか?

  • 両親が音楽の仕事に就いていたので絵よりも音楽が生活にありました。自宅ではプログレッシブロックやクラシック・ジプシーミュージック・フュージョンなど、いろんな音楽がかかっていました。 

    今も制作の合間に音楽をよく聞いています。ペンギンカフェオーケストラやマーティンデニーといったユートピアを感じるものに触発されています。描きたい景色もそこに近いかもしれないですね。両親は音楽の他にも、絵画や絵本・アニメーション等様々なものを紹介してくれました。

  • --絵を描く環境で育ったのでしょうか?

なかなか渋い子供時代ですね

  • 野山で遊ぶことも多かったです。育った地元は山に囲まれた場所だったので、野の花や草木が身近にありました。よく花や昆虫をじっと眺めていましたね。小さいものと対等な目線になり、小人になった感覚を初めて持ったのも子供時代です。音楽と、野山での体験が絵の原点かも知れないです。

--美大への進学はいつ頃から意識されましたか?

  • 小学生の作文で「美大に行きます」と書いていたくらいなので意識したのは早かったですね。片道2時間かけて美術専門コースがある中高一貫校に通っていました。

    学校ではバンドも組んでいました。絵と同じく音楽も費やした時間が大事だと考えています。残りの人生を賭けるのに「音楽か絵か?」と自分に問いかけたときに、私は絵を選択しました。

--日本画は高校時代から興味があったのですか?

  • まずイラストやコミックなどに興味がありました。それらの礎として古典技法を学びたいと思い、日本画を志したのが高校1年の時です。

    けれど、美大では悩みました。授業では横山大観以降のいわゆる日本画壇的なものが中心です。私が心惹かれる日本美術はそういった近代の日本画ではなく、室町時代に制作された御伽草子絵巻や説話画などでした。この時代はゆるいタッチの絵柄で描かれたナンセンスなお話の絵巻が多く、本当に面白いです。

     

    音楽用語で言うと、ニューウェイヴな趣を感じます。旅人がお土産物として楽しんでいた大津絵などの民画も軽やかなタッチで味わい深いです。

  • --日本画は高校時代から興味があったのですか?

--どうやって乗り越えて行ったのでしょう?

  • 悩んでいた頃、植物を描く授業で急に思いつき、小人を登場させてみました。小人を登場させた瞬間、今まで分けて考えていたイラストと日本画がとても調和した形で現れ、感動しました。小人になった感覚で植物を観察していた、子供の頃の体験を思い出したのかもしれませんね。私にとって小人は、異界や自然と人間の境界にありそれを繋ぐものだろうと思っています。

  • --どうやって乗り越えて行ったのでしょう?

--お仕事はアニメ作品とのコラボレーションなども幅広い一方で、個展も精力的にされていますよね。

  • 個展は年23回くらいのペースで開催しています。普段からドローイングを描きためて、個展の度に絵画に落とし込んでいます。去年、初めて海外個展を開催しました。私がコラボしたアニメ作品のグッズを持ってきてくれた方々もいて、自分の作品が海外にも届いている事を感じました。

--今回の個展Bloomについて教えてください。

  • 春のうごめきを意識した個展です。

    春は綺麗だけど恐ろしさもある気がします。冬眠していた生き物がぐんぐん目覚める季節なので、直接耳には聞こえない周波数の音がうごめいているのだと思います。芋虫から蝶へ変態するのも、芋虫の人格はどうなったのかな?などと考えてしまいます。

    梶井基次郎の「櫻の樹の下には」という短編小説に表現されるような残酷な部分も感じます。

    春は「木の芽時」と言われ、体の不調を訴えたり心が乱れる人が多いと母から教わりました。世間では「春は明るく楽しくしなければならない」という風潮ですが、体や心の反応に素直になることも良いのではないでしょうか。本展では、新旧作含め2030点くらいを出展予定です。

  • --今回の個展Bloomについて教えてください。

--影響を受けたアーティストは?

  • 一番影響を受けたのは、御伽草子絵巻や説話画などを描いた作者不詳の人たちです。

    近代以降の作品ですと、プログレッシブロックのジャケットに惹かれます。無の空間にモチーフや地平線が浮かぶ世界が好みです。絵本作家ではたむらしげるさんや佐々木マキさんを挙げます。コミックではジム・ウードリングさん。これらの作品のナンセンスさは、御伽草子に通ずるものを感じます。

--最近興味があることは?

  • 休日はよく夫婦で釣り堀に行き、金魚釣りや鱒釣りをしています。陶芸教室も通っています。どちらも無心になって自分をチューニングできる機会です。釣りも陶芸も縄文時代からあるなと最近気がつきました。昔は仕事だったはずのものが今では娯楽になっている、という現象が面白いなと思います。

--挑戦したいことは?

  • 絵本をたくさん描きたいです。

    絵本は今いくつか企画が進行していて、今年中にも出版予定があります。

    今後、御伽草子的な絵本を描いてみたいなと考えています。

    御伽草子には口伝で伝わった物語も収録されています。今の時代は作家の個性や名前が大事にされていますが、口伝で伝わった物語は作者不詳です。文字がなかった時代は、今よりも物語と実際の世界との境界が曖昧だったのかもしれません。そしてまたそのような時代が来る事はあり得ると考えています。何千年何万年か後の未来に、私の名前がこの世から消えて、私が作った物語だけが残り続けていたらそれは素敵な事だなと思います。

  • --挑戦したいことは?

ARTIST PROFILE

  • 鬼頭祈 Inori Kito
  • 鬼頭祈 Inori Kito

    1991年静岡生まれ。京都造形芸術大学 日本画コース卒業。
    日本画の技法を生かし、小人や苺をモチーフにした現代的な絵画を制作。
    画家として国内外の個展を中心に活動。
    イラストレーターとして広告・アニメコラボグッズ・絵本などに作品を提供。
    第190回ザ・チョイス入選(江口寿史氏審査)
    www.inorikito.jp/
    https://digmeout.net/artists/inori-kito/

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