井上純也 個展「ジオラマ」

ミニマルな水彩画で「今ここにある景色」を捉える水彩画家・井上純也さん。「とにかく描いていて楽しかった」と笑顔も交えながら、1年ぶりの個展のことやご自身のスタイルについてお話しを伺いました。

絵の中では自由なんだ、と。

―1年ぶりの個展開催ですね。今回はまずタイトルに意外性がありました。アブストラクトなタイトルが過去にはありましたが今回は「ジオラマ」と具体的ですね。

  • 今回、個展の制作の中で、タイトルがなかなか定まりませんでした。ただ、今回はかつてないほど描くのが楽しくて。絵の中は自由じゃないですか。例えば僕たちが月に住める、動物の形も決まりはない。絵の空間で不可能も制限もなくて、今回は心情的に何かを「作っている」感覚でした。ジオラマとは一般的には「模型」ですが、僕はその自由な空間をジオラマという言葉で表現してみました。特に今回、「クラゲ」を登場させたところからタイトルが決まりましたね。

  • ―1年ぶりの個展開催ですね。今回はまずタイトルに意外性がありました。アブストラクトなタイトルが過去にはありましたが今回は「ジオラマ」と具体的ですね。

ークラゲはいつから意識しました?

  • この個展とは関係なく、なんとなく意識はしていました。僕、水が好きなのです。水面や水たまり、もっと言えば「透明なもの」が好きです。漠然と透明な膜を描きたかった。今回でクラゲを描いたのは僕の心情に合っていたのかも知れないですね。そこから、水中か水面か限定しない空間で僕のジオラマ作りが始まりました。描きながら水面なのか水中なのか、そこに地平線や森や月や人物を描いていると、ここは水中じゃないところにクラゲが漂っているのかな、、いう不思議な感覚で楽しみながら描きました。でもクラゲが主体ではなく、あくまで描きたいのは「そこに在る」という美しさで、そこは僕のこだわりです。クラゲはこの作品の媒介者となる名脇役ですね。

  • ークラゲはいつから意識しました?

削ぎ落とした先に見える美

―井上さんの作品は一貫してミニマルでありながらも、見る側の感情を引き出してくれる器の大きさを感じますが。

  • いつも「削ぎ落とした先に見える美」を描いています。「削ぐって何だろう」と思いながら描いて、ある種の苦行ではありますが(笑)。僕の作品は8割ぐらいが背景を描いたときに決まります。あとは動物のシルエット、大きさ、配置、塗り方で儚さを出しています。ロンリネスみたいなのもありますね。集団の中で孤独で在るものに対して僕は美しさを感じます。それはもう、在るだけで美しいのです。

―水彩絵の具のどういうところに魅力を感じますか?

  • 僕の頭の中に出来上がりの絵のイメージがあるのですが、水彩絵の具ってその通りにならないんですよね。意識と無意識が混在していると僕は捉えています。その無意識の部分が楽しくもあり、思うようにいかないところでもあります。水の量、気温、室温、紙の種類によっても変化します。乾かし方も自然乾燥かドライヤーかで違いますしね。僕にとって水彩画とは、意識と無意識の狭間にある絵という感覚です。思い通りになりそうでならないし、滲みなどは一瞬の一発勝負と集中で、ある種の偶然の産物でもあるわけです。そして、いい「黒」ができたときはすごく満足します。

ーちなみにどのくらい重ねて塗っていますか?

  • ぼかしで描くときは最低10回は重ねていますし、20回以上重ねているのもあります。

    黒は重ねていないのですが、色を3色に分けています。濃い黒一色だと、僕の好きな伸び方ではない。その前に薄い黒をまず乗せて、僕なりにトーンの違う黒を乗せて混じり合わせてのコントラストです。黒は色のない世界と思っている人には、黒もバリエーションがあるということを感じてもらいたいですね。僕としてはまだまだもっと黒1本で描けると今回発見しました。でも、黒だけではななく空間も観てもらえたらと思います。ちなみに、僕にとって余白とは白の部分もちゃんと塗ってるので、削ぎながらも塗っています。

  • ーちなみにどのくらい重ねて塗っていますか?

今頑張っている同世代の作家の存在

―描く時のインスピレーションや影響を受けた作家など教えてください。

  • インスピレーションは自然から得ることが多いですね。山や森にいる時、水を眺めている時などです。常に絵のことは考えているので、人と会っている時や何気ない瞬間にもインスピレーションは湧きます。でも僕はスケッチをしないタイプなので、頭の中で反復してイメージを留めています。それが実際に絵を描く時のイメージとなりますね。好きな作家はいますけど、影響を受けたというのではありません。敢えて言えば、印象派の絵画が好きで、光の使い方など勉強になります。人物から影響や刺激を受けるのは、同世代の若手の作家さんたちからです。色々なところで頑張っているのを見聞きすることでとても刺激を受けます。有名な人たちではなく今頑張っている周囲の作家から力をもらいます。

ー気分転換や最近読んだ本など教えてください。

  • 自然が好きなので原生林を歩き回ったりしますね。本は、森博嗣さんの作品が好きです。彼の文体が、削がれていてそして美しい。絵を描きながら彼の文体に励まされています。

描くことで発見していく

ーチャレンジしてみたいこと、最近興味があることはなんでしょうか?

  • 動物以外に静物を描いてみようかなと思います。生き物でなくても命の美しさを描けたらな、と思います。あと、息抜きでドローイングを描いていた時に、鉛筆と水彩絵の具との組み合わせが新鮮でした。1枚の絵の中に描き方が違うものがあっても面白くて、さらに自由に楽しめました。筆ではできないことが鉛筆ではできることが発見でしたね。

  • ーチャレンジしてみたいこと、最近興味があることはなんでしょうか?

ARTIST PROFILE

  • 井上純也 |Junya Inoue
  • 井上純也 |Junya Inoue

    1988年生まれ、奈良県在住。
    「日々感じる物悲しさや寂しさ、儚さを抱えながらも此処に在る命の美しさ・ただ在ることの美しさ」をテーマにモノクロームの水彩画で制作する作家。関西を中心に個展や公募展、イベント等で活動中。

    https://digmeout.net/artists/junya-inoue/

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