鹿島孝一郎 個展「いっぱいの紅茶で幸せなひととき」

透明水彩で細密に描かれる「ティーさん」と「カメレオン」の作者はUNKNOWN ASIA 2017をきっかけに国内外のアートファンの心を捉えた鹿島孝一郎さん。物静かな語り口から溢れる作品への愛や夢など、鹿島さんの情熱をお伺いしました。

動物がすべての始まり

--鹿島さんはどんな子供でした?

  • 動物と絵が大好きで、飼っていた動物の記録を残すための絵や工作や、色鉛筆で動物図鑑の模写をしていました。小学生のころから「本の形」に魅力を感じていて、自分の描いた動物の紙を束ねて手製の本にすることにこだわっていました。「○○図鑑」とか作って、教室に置きました。クラスメートの反応は微妙でしたが(笑)。

  • --鹿島さんはどんな子供でした?

--絵が好きな鹿島少年はそのまま絵の世界へ?

  • いえいえ。中高時代は進学校だったので勉強一辺倒で全く絵から離れました。でも18歳頃に飼っていた動物を写真で撮り始めてカメラにのめりこみました。写真のきっかけも動物ですね。構成するのが好きで人物や風景も工夫して撮影しましたが、どうしても自分が表現したいものに上手く寄せられない。大学2回生の頃に絵を描きたい気持ちが強く戻ってきました。

--鹿島さんは近畿大学を卒業後に京都精華大学へ入学という経歴ですよね。

  • はい。近大の2回生の時に美大に行くことを決心して親を説得しました。母親が美大出身で絵だけでやっていく大変さを知っていたので時間を掛けて口説いて。最終的には僕の希望を汲んでくれて今では家族の応援がとても心強いです。とにかく描きまくった4年間でしたし、卒展で学長賞を受賞出来たことがとても嬉しかったです。

UNKNOWN ASIAから始まった転機

--大学時代から今のような透明水彩と細い絵筆で緻密な絵を描いていましたか?

  • 作風も物語仕立てにして登場人物を描く表現も同じです。ただ以前は1枚の絵に伝えたいことを詰め込み過ぎていました。精華の3回生でUNKNOWN ASIAに初出展した時は背景も色塗りした盛りだくさんの絵でした。初めてイタリアの「ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア」に飛び込み営業に行った時も、その絵で全く相手にされませんでした。今のような余白を生かして中心に描く構図は、制作の合間に休憩がてらに描いていたものなのに、アンノウンアジアではメインの作品より筆休めの作品ばかり目が行く。「伝えたいものをはっきりしたい」と思って去年のUNKNOWN ASIAでは今の作風で世界観も含めて再挑戦しました。

  • --大学時代から今のような透明水彩と細い絵筆で緻密な絵を描いていましたか?

--去年のUNKNOWN ASIAでは冠スポンサーの紀陽銀行賞や海外の審査委員賞など幾つも受賞でしたが、どんな経験をされましたか?

  • 紀陽銀行さんでは2018年春のキャンペーンで僕の世界観そのままの絵をメインビジュアルとしてポスターや通帳ケース、ノベルティグッズへの採用や、難波の新店舗「NAMBA SQUARE」で3か月間店内まるごと装飾してくださるなど(20189月終了)とても良いお仕事をさせて頂きました。また、海外の審査員の方々からは2月にはバンコク、7月はジャカルタとそれぞれグループ展に招待され海外の方々に見てもらう機会に恵まれました。

     

--海外の方の反応はどうでしたか?

  • とても良かったです。言葉の壁も絵が僕の代わりに語ってくれるし、片言でも十分楽しくコミュニケーションしました。深いところまでは伝わりにくくても、まず絵を気に入ってくれてインスタグラムにもたくさん投稿してもらえたし、虫眼鏡を絵の上に置いてそこから写真を撮るとインスタ映えもすることも教えてもらいました(笑)フォロワー数が一気に増えたことでも手応えを感じましたね。バンコクで600人、ジャカルタでは1,000人増えました。ジャカルタは特に大歓迎されて嬉しかったです。

完璧さについて

--日本で初個展ですが、今回の個展のテーマについて教えてください。

  • 大きなテーマである「ティーさんとカメレオン」というストーリーから彼らの幸せなひとときを描きます。ざっと話すと、二人は姉弟です。人間の世界で苦しみがいっぱいになった人だけに見える扉があり、その扉の向こう側での世界の話しです。心が苦しみでいっぱいになった二人は扉の向こうで再会しますが、そこは幸せな事しかない世界。3年間だけその世界で暮らせる「お試し期間」があるのですが、個展ではその3年間の日々を描きます。僕の絵は、「可愛い」「お菓子やお茶が美味しそう」と言われることが多くて、そう言ってもらうのは嬉しいですが、個展では世界観が作れるので物語についてお伝えしたいですね。113日のギャラリートークでもお話ししたいです。自作の額装を付けてアトリエで使っている道具も持ち込んで世界観を作ります。

  • --日本で初個展ですが、今回の個展のテーマについて教えてください。

--鹿島さんの描き方や世界観など表現そのものが「緻密」や「完璧」と言われることが多いですが、どちらの言葉がしっくりきますか?またそれはどうしてですか?

  • うーん、僕は「完璧」と言われたいです。完全無欠ではないですが、その場でベストな完璧です。僕は自作のキャラクターを愛していて、彼らのために完璧にしたい。額も絵と一体化して世界観を表現して味わって頂くために自作しますし、お仕事で原画を見せる道具もすべて自作で僕の描く絵のムードが伝わるようにしています。

--その「完璧」はどこから来るのでしょうか?影響を受けたアーティストは?

  • 子供の頃によく連れて行ってもらったディズニーランドです。そこからは周囲のビルも高速道路も見えない。あるのはただ、完璧なディズニーの世界。すべてが完璧に設計され表現されていることに子供ながらに惹かれ強い影響を受けました。

--なるほど。図鑑の模写からディズニーまで繋がりました。初個展での意気込みを教えてください。

  • 毎日在廊する予定ですから、お客様にストーリーや絵のお話しをして、何度でも絵を観返してもらいたいですね。これは何なの?から始まる会話も楽しみです。制作もしています。時間がかかる絵ですが(笑)これもぜひ見て頂きたいです。透明水彩など普段の道具も持ち込みます。展示は、大小合わせて約35点、ほぼ新作描き下ろしです。グッズも幾つかご用意します。

やりたいことだらけです

--さて、鹿島さんの今後の抱負を聞かせてください。

  • 来年に念願の絵本をスペインから発行します。児童書専門の見本市「ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア」に2度単身乗り込んで、今年4月に決まりました。時期をずらして2冊出します。また、壁画や絵と工作を組み合わせたミクストメディアでスケールの大きな展示もやってみたいです。そして、将来的には僕の絵で短編映画を作るのが夢ですね。海外でもチャンスがあれば積極的に出たいですし、やりたいことだらけです。

  • --さて、鹿島さんの今後の抱負を聞かせてください。

DMOARTS DIRECTOR’S EYE

--高橋ディレクターから観た鹿島ワールドは?

  • 精華大学在学中から彼の作品を観ていますが余白の使い方が凄く上手くなっていますね。以前は詰め込み過ぎて伝えたいことが多すぎた感がありましたが、良い形に変化して「僕はこれ」というのが定まってきました。丁寧な物語を絵と共に楽しんでもらえたら嬉しいです。

  • --高橋ディレクターから観た鹿島ワールドは?

ARTIST PROFILE

  • 鹿島 孝一郎 Koichiro Kashima
  • 鹿島 孝一郎 Koichiro Kashima

    1991年 大阪出身 

    2017年
    UNKNOWN ASIA 2017 出展 
    メインスポンサー賞 (紀陽銀行様)
    審査員賞 (小林功二氏・Hermawan Tazil氏)
    レビュアー賞 (渡邊良隆氏・村上雅彦氏)
    大阪ダイビル本館にて展示

    2018年
    卒業制作展にて学長賞受賞 (竹宮惠子氏)
    京都精華大学デザイン学部卒業
    バンコクThe Jam Factoryにてアートフェア参加 
    紀陽銀行春のキャンペーンビジュアル担当
    紀陽銀行× FM802のコラボスペースNAMBA SQUAREオープニングアート担当
    ジャカルタdia.lo.gue.ギャラリーにて展示

    Website : https://www.koichirokashima.com
    Instagram: https://www.instagram.com/koichirokashima/
    Twitter : https://twitter.com/teakashima
    digmeout : https://digmeout.net/artists/koichiro-kashima/

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